FRANK MARINO & MAHOGANY RUSH/TALES OF THE UNEXPECTED(1979)

FRANK MARINO.jpgこのあたりは現在台風19号の接近により避難勧告が出ているのだが、そんな中で仕事の合間にいつも通りブログ書いてみたりする。

FRANK MARINO & MAHOGANY RUSHはずっと前に『LIVE』(1978年)を紹介したが、この『TALES OF THE UNEXPECTED』はその次に出たアルバム。
ライヴ盤でそれまでの活動を総括するような感じで、次のアルバムで音楽性をガラッと変えたりしたバンドは70年代にけっこう多かった。
(代表格はBLUE OYSTER CULTだろうか)
フランク・マリノはそこまででもない。
ってか、前作がライヴ盤だったのに、このアルバムもLPのB面がライヴ録音って、なんでそんなことを…。

ここでのライヴ音源は全曲新曲。
前後に同じような例はある。
LPのA面がライヴだったZZ TOP『FANDANGO』(1975年:旧レパートリーも含む)とか、アルバム全曲がライヴ録音の新曲だったテッド・ニュージェント『INTENSITIES IN 10 CITIES』(81年)とか。
片面のみライヴというのは、LP時代ならではの発想だろう。

「そこまででもない」と言いつつ、やはり変化はある。
フランク・マリノ(ギター、ヴォーカル)、ポール・ハーウッド(ベース)、ジム・エイヨブ(ドラム)のトリオ編成はデビュー以来不動だったものの、『MAHOGANY RUSH Ⅳ』(1976年)でメジャー・デビューして以降は単純なパワー・トリオではなく、シンセサイザーも用いるようになっていたFRANK MARINO & MAHOGANY RUSH。
『MAHOGANY RUSH Ⅳ』の時点ではシンセよりもメロトロン主体だったのが、『TALES OF THE UNEXPECTED』ではフランク自身がプレイするシンセがよりフィーチュアされるようになっていて。
1曲目「Sister Change」のイントロから大活躍している。
テクニカルなギタリストがシンセにも興味を持ち…という例としてはエディ・ヴァン・ヘイレンが有名だが、フランクはエディにかなり先駆けていた。

THE BEATLESのカヴァー「Norwegian Wood」やアルバムのタイトル曲でもシンセサイザーの使用がかなり目立っている。
ジミ・ヘンドリックス・フォロワーとして知られたフランク・マリノ、実はBEATLESもかなり好きだったらしい。
とはいえやはり顔を出すジミ大好きぶり。
『LIVE』のラストで「Purple Haze」をカヴァーしていたが、このアルバムでも完全にジミのヴァージョンを意識したと思われるボブ・ディラン「All Along The Watchtower」のカヴァーを聴かせる。
ギター奏法の限界を押し広げたジミ、スタジオでの音楽的実験を追求していった中期以降のBEATLES。
このアルバムでフランクがシンセを多用したのも、自分なりに新しい音を追求してのことだったのかも知れない。

一方、「Tales Of The Unexpected」での弾きまくりは多分にジャズの語法を感じさせるモノだ。
70年代のYOUNG GUITARあたりで、フランクが“新世代のギタリスト”としてアル・ディ・メオラなんかと一緒に取り上げられていたことを思い出す。
(もっとも、直後にエディ・ヴァン・ヘイレンが登場したことで、フランクはあっという間に“新世代”ではなくなってしまうワケで…)

B面のライヴ音源は収録日も場所もクレジットされていない。
収録曲の半分近くがカヴァーだった『LIVE』に対し、ここではオリジナルの新曲4曲がプレイされている。
シンセサイザーをフィーチュアして作り込んだ印象のあるA面に対して、やはりというかワイルドなパワー・トリオぶりが全開。
リズム・セクションがかなりの演奏巧者ということにも改めて気付かされる。
「Woman」あたりでのフランク・マリノのジミ・ヘンドリックス直系ぶりは三つ子の魂百までもというべきか。
ただ、空間系のエフェクトを組み合わせてえらくスペーシーな音を出していた『LIVE』に対し、ここでのフランクのサウンドは比較的ストレート。
メンバーは同じままでMAHOGANY RUSHの名前を捨ててしまう80年代を予感させなくもない。

新しい音、あるいはアーティストとしての新しいイメージを求めての試行錯誤は、いつも良い結果を生むとは限らない。
『TALES OF THE UNEXPECTED』A面で大々的にシンセサイザーをフィーチュアしたフランク・マリノは、次作『WHAT'S NEXT』(1980年)ではまったくシンセを使わず、実弟ヴィンス・マリノにリズム・ギターを弾かせ、更に81年からはそのままの編成で何故かソロ名義になってしまう。
しかしそれらの変化が奏功することは、なかった。


さて、外はどんな具合かな…。
皆様、どうか御安全に。

「トゲトゲしい夜 第六夜」@新大久保EARTHDOM

KIMG0255.JPGはい、10日(木)「トゲトゲしい夜 第六夜」@新大久保EARTHDOM、御来場の皆様ありがとうございました。
“桃王子”の誕生日を祝うという趣旨のイヴェントでしたが、一方でMONE¥i$GODの新旧メンバーが集まったマネー祭りの様相でありました。

会場入りすると、スナックももえがリハーサル中。
正規のドラマーであるアラブ(LOVE GENE)の到着が遅れたため、リハーサルではなんとMONE¥i$GODの平野勇がドラムを叩いていた。

ともあれEARTHDOMでは初めてのDJ。
見慣れない機材にちょっと緊張。
あっという間に開場時間。


1st SET(OP)
MAY/谷山浩子
セシールの雨傘/飯島真理
仮面の笑顔/PAGEANT
Gloria/PATTI SMITH
I Love Rock 'n Roll/JOAN JETT & THE BLACKHEARTS
Wild One/SUZY QUATRO
Move Over/JANIS JOPLIN
Hit Me With Your Best Shot/PAT BENATAR
ピラニアBOY/キャー
Cherry Bomb/THE RUNAWAYS
My Way/NINA HAGEN

片側のCDJの調子があまりよくなく、途中でCDが取り出せなくなって焦る。
とりあえず反対側のCDJだけ使ってCDを出し入れしながら出て来ない方のエジェクト・ボタンを必死に押しまくったりしていたところに、ライヴのスタートが10分押したこともあって、後半ちょっと変な流れになってしまった。

一番手、スナックももえが登場。
MONE¥i$GODのヴォーカリスト、カンの奥方であるカコちゃん率いるこのバンド、以前はやまぐちももえーず名義だったが、その後メンバー交代と増員とバンド名変更。
今ではヴォーカルにコーラス、コーラス兼サックス、ギター2本、ベース、キーボード、ドラムという8人編成に。
MONE¥i$GODのベーシスト、しゃあみんがここではキーボードを担当している。
今回は山口百恵だけではなく、キャンディーズ「やさしい悪魔」もカヴァーしていた。
フロントに女性が3人いるのでそれも無理なく出来るのである。


2nd SET
Swampland/SCIENTISTS
Kool Thing/SONIC YOUTH
夜、暗殺者の夜/裸のラリーズ

SCIENTISTS、十数年ぶりに回したなあ。
次のバンドが出し始めた音と裸のラリーズが重なって、なんかイイ感じになっていた。

二番手はThe Fogpainters。
ギター2本の4人編成。
絵に描いたようなシューゲイザーぶりを聴かせるバンド。
輪郭のぼやけた柔らかい轟音といった感じのギターに、シンプルながらドライヴするベース。
奇数拍子を交えた変則的なリズムをパキパキ叩いていく女性ドラマーがナイス。

The Fogpaintersを観ながら、カコちゃん手製の“カコ煮”をいただく。
美味しゅうございました。


3rd SET
Caledonia/CROMAGNON
Fun House/THE STOOGES
It's A Rainy Day, Sunshine Girl/FAUST
Race With The Devil/GUN
Sister Ray/THE VELVET UNDERGROUND

GUNも十数年ぶりに回したと思う。
「Fun House」に合わせて、MONE¥i$GODのモトイがヘンな動きをしていた(笑)。

トリ前、SSsSS。
サックス×2、ギター兼エレクトロニクス、ベース兼エレクトロニクス、ドラムという5人組。
ベーシストが基本ずっと後ろを向いたままベースを弾いて機材を操作ししながら、時々指揮者のような身振りで他のメンバーに合図を送っている様子。
全1曲という感じで途切れることなくかなりフリーキーな音を出していたが、サックス奏者二人の前には譜面台があったので、単なる即興ではなかったはず。
途中でノイジーなサンバ、という感じのリズムになり、アヴァンギャルドなれど実はけっこうダンサブル。
サングラスをかけて後ろ向きで表情の窺えないベーシストに対して、ドラマーが終始笑顔で叩きまくっていたのが印象的だった。
面白かった。


4th SET
しゃぶっておくれ/SLIP HEAD BUTT
Public Image/脳不安
Bellbottoms/THE JON SPENCER BLUES EXPLOSION
Father Cannot Yell/CAN

そしてトリはMONE¥i$GOD(画像)。
今回は「Hate Song」を演らない変則的なセット。
しかし「Psycho Magic」でビシッと締まる。
初めて観た時は初期のインダストリアル・ハードコアを引き継ぐ路線で、遅・重・轟という感じの音を出していたこのバンドだが、その後リズム・セクションがしゃあみんと平野勇で固定し、ギタリストの変遷を経て今の編成になってからは、ヘヴィながらもノれる独特のグルーヴを獲得した。
この晩も、ライヴが楽しくて仕方ないという感じで飛び跳ねるモトイに合わせてしゃあみんが一緒に跳ねていたのが、今のMONE¥i$GODを象徴していた気がする。
ちなみに「Psycho Magic」で印象的なイントロとサビのコーラスのメロディを考えたのは平野らしい。
曲の終盤にはカンがマイクをフロアに放り込んで先に引っ込んでしまい、フロアとしゃあみんのコーラスで曲が終わった。
(しばらく前からモトイの前にはもうマイクスタンドがない)
終演後、桃王子にケーキが贈呈される。


5th SET(ED)
Creeping Worms(Under Your Rest)/ASYLUM
Close the Eyes/BACTERIA
Oscillations/SILVER APPLES

時間がかなり押していたこともあり、最後はちょっと回して終える。
予想していたが、EARTHDOMだとバンド演奏時以外はお客さんがバースペースに集まる方が多く。
転換DJを単なるBGMにしない、という点ではまだ修行だなー。
バースペースでビール飲んで地上に出ると、雨だった…。

ところでMONE¥i$GOD、もうずっとアルバム出してないのに、物販にTシャツの種類ばっかりやたらと多いのはどういうこと?(苦笑)
アルバム出そうよ…。


ともあれ楽しいイヴェントでした。
次のDJは28日(月)「音楽酒場交遊録」@渋谷SHIFTYです。
皆様またよろしくです。

明日新大久保

トゲトゲしい夜 OCT 2019.jpgはい、10日(木)「トゲトゲしい夜」@新大久保EARTHDOM、いよいよ明日となりました。
早いなー。
タイムテーブルは以下の通りです。










19:00開場
オープニング&転換
DJ 大越よしはる

①スナックももえ
19:30~20:00
②The Fogpainters
20:10~20:40
③SSsSS
20:50~21:20
④MONE¥i$GOD
21:30~22:00

桃王子31歳の誕生日を祝うイヴェントとか言いつつ、実は出演4バンド全部に新旧MONE¥i$GODのメンバーが在籍するというMONE¥i$GOD祭り!
通常のイヴェントなら19時からライヴがスタートしそうなところ、19時開場で19時半からライヴというのは、平日イヴェントでも大半のお客さんがオープニングDJすっ飛ばさないで接するようにという主催側の配慮を感じて泣いております。
おじさん頑張るよ…。
(翌日締切だけどな…)

ともあれ明日は新大久保でお会いしましょう。
ヨロシクです。

THE DOOBIE BROTHERS/What A Fool Believes(1978)

DOOBIE BROTHERS.jpgDJで使おうと思って買った7inch。
結局今まで一度も回してない。
コレと一緒に回せるようなレコードをあんまり持ってなくて。
(前に紹介したジョージ・ハリスンとか、そういうのけっこうあるなー)

THE DOOBIE BROTHERSの8thアルバム『MINUTE BY MINUTE』収録曲。
シングル、アルバム共に全米1位の大ヒット。
マイケル・マクドナルドとケニー・ロギンスの共作曲で、ケニーの1stソロ・アルバム『NIGHTWATCH』(1978年)に収録されたのが先だったという。

洋楽を聴き始めてしばらくの間は、THE DOOBIE BROTHERSと言えばパワフルなギター・バンドだった初期に限る、と頑なに思っていた。
マイケル・マクドナルドが歌う後期なんてとてもじゃないが聴けたもんじゃない、と。
20年以上前だが、バンドのヒストリーをまとめたヴィデオを観る機会があって。
オープニングで、各時代・各編成のバンドが演奏する「Listen To The Music」を延々とつないでみせるという趣向があり。
それを観て、メンバーが変わっても音楽性が変わっても、それはいきなり舵を切ったのじゃなく連綿とつながって来た足跡だったのだなあとか思い。
今では後期のDOOBIE BROTHERSも大好き。

この時期のメンバーはパトリック・シモンズ(ギター、ヴォーカル他)、ジェフ・バクスター(ギター)、タイラン・ポーター(ベース)、マイケル・マクドナルド(キーボード、ヴォーカル)、ジョン・ハートマン(ドラム)、キース・ヌードセン(ドラム、ヴォーカル)の6人。
オリジナル・メンバーは既にパトリックとジョンの二人だけになっていた。
トム・ジョンストン(ギター、ヴォーカル)の離脱で、ジェフ参加後のトリプル・ギター体制が崩れ、マイケルのヴォーカルとキーボードをフィーチュアしてサウンドがソフィスティケイトされて行き。
(オリジナル・メンバーがバンドの3分の1、一方この時点でSTEELY DAN出身者も3分の1)
『MINUTE BY MINUTE』はマイケルが加入して3作目のアルバムだった。

改めて聴くと、確かにAOR的ではあるものの。
ツイン・ドラム+当時のロック・バンドでは珍しかった黒人のベーシストによる腰の強いリズムは健在だし、そこに乗るマイケルの歌唱も、黒人音楽の影響を見事に消化し切った素晴らしい出来。
コーラスも良い。

「What A Fool Believes」という曲名を見ると、“正直者は馬鹿を見る”とか、どうかすると“馬鹿は見る豚のケツ”とかを連想してしまうのは俺だけだろうか。
実際の意味は“ある馬鹿が信じるモノ”みたいな感じか。
去って行った彼女がいつか戻ってくると信じる馬鹿な男の歌。
(ロックにはそういう歌けっこう多いけど、まあまず戻ってきませんからね)

この曲にパーカッションを導入したのはデビュー以来のプロデューサー、テッド・テンプルマンだったそうだが、ツイン・ドラム+パーカッションというリズム・コンシャスなサウンドは、より一層ソフィスティケイトの度合いを強め。
結局末期と再結成後のTHE DOOBIE BROTHERSでは、2台のドラムの間にパーカッション、というステージが観られるようになる。

B面曲「Steamer Lane Breakdown」はパトリック・シモンズ作曲の、初期を思わせる軽快なカントリー・ロック風のインストゥルメンタル。

IGGY POP/FREE

IGGY POP FREE.jpg紹介が遅くなった。
発売日にゲット出来なかったというのもあるが。
先月下旬に入手して以降、1回聴いて、間をおいてもう1回聴いて…を日々繰り返していた。
何度も何度も聴き返したくなる一方で、なかなかこのアルバムについて書ける気がして来なかった。
何処のCD屋でも面出しで売られていたし、このブログを御覧の皆様なら既に俺より何度も聴いている人も多いかも知れない。

イギー・ポップ、『POST POP DEPRESSION』(2016年)から3年ぶりとなる新作。
当然ながらと言うべきなのか、『POST POP DEPRESSION』とはまったく違ったアプローチのアルバムに仕上がっている。

プロデュースは7曲をレロン・トーマスが、3曲を“ノヴェラー”ことサラ・リップステイトが担当。
俺はどちらのことも知らなかった。
イギー・ポップはBBCの自分の番組での選曲を通して彼らを知ったとのこと。
(ノヴェラーは『POST POP DEPRESSION』に伴うツアーのオープニング・アクトに起用されていたという。レロンもPAN AMSTERDAM × IGGY POP名義のシングル「Mobile」で共演済みとのことだが、俺は未聴だった)
二人はそれぞれトランペットとギタースケープで演奏面でも多大な貢献を果たしている。
(レロンは曲によりキーボードも担当)
レコーディングはニューヨークとフランスの4ヵ所のスタジオで行なわれている。

34分弱という短い尺のアルバム。
(IGGY AND THE STOOGESの『RAW POWER』と同じくらいか)
21世紀の今ではミニアルバム扱いになりそうな短さ。
しかし中身は実に濃密。

イギー・ポップと言えば誰もが連想する“パンクのゴッド・ファーザー”というイメージ…からは程遠い作風。
その点で『THE IDIOT』(1977年)や『AVENUE B』(99年)や『PRELIMINAIRES』(2009年)や『Apres』(12年)を思い出すのは簡単。
しかし『THE IDIOT』の作風を直接的に引き継いでいたのは『POST POP DEPRESSION』の方だし。
沈み込むような音を聴かせつつ、イギーにとっての“離婚伝説”だった(?)『AVENUE B』のようには内省的ではない。
(何しろタイトルが一言『FREE』とストレート)
『PRELIMINAIRES』や『Apres』のようにフレンチ・ポップやジャズやシャンソンを歌っているワケでもなく。
歌っているワケでもなく…というか、そもそも歌ってさえいない曲も多かったり。

歌ってさえいない曲…何しろアルバム終盤など、演奏に乗せたポエトリー・リーディング的な内容が3曲も続く。
しかもその詩は自身によるモノではなく、ルー・リードやディラン・トマスの作品。
ディランの「Do Not Go Gentle Into That Good Night」は、あのジョン・ケイル(ディランと同じウェールズの出身)もアルバム『WORDS FOR THE DYING』(1989年)で素敵なメロディを付けて歌っていた有名な詩。
イギー・ポップはノヴェラーのギタースケープとレロン・トーマスのトランペットに乗せて、歌わずに語る。
コレがまた実にディープ。
ルーの71年の詩だという「We Are The People」も同様で、分断が進む今の世界を撃つようなこんな詩をソロ・デビュー以前のルーが書いていたことにも感じ入る。

ディラン・トマスやルー・リードの詩だけではない。
メロディを付けて“歌われている”歌詞もイギー・ポップではなくレロン・トーマスによって書かれたモノが多く。
イギー自身が書いた歌詞は10曲中、なんと3曲しかない。
スリーヴノーツでイギーは「コレは他のアーティストが俺に語りかけ、俺が自分の声を貸しただけのアルバムさ」と語っている。
方向性は違えど、イギーが他人の歌詞を積極的に歌った『PRELIMINAIRES』や『Apres』のアプローチを、カヴァーではなく他人が書き下ろした歌詞を歌うという形で更に一歩進めたモノと言えなくもない。

先に書いたとおり俺はレロン・トーマスとノヴェラーを知らなかったのだが、他の参加メンバーもなんか知らない人ばっかり。
(もっとも、一般的には無名な若いミュージシャンを起用するのは90年代以降のイギー・ポップがよくやって来たことでもある)
ギター、ベース、ドラムとも曲によって複数のミュージシャンが参加していて、それがみんなイイ仕事ぶりで。
特に「James Bond」「Dirty Sanchez」「Glow In The Dark」といった曲では、印象的なベース・ラインが楽曲をリードしている。
お得意のR&Rこそ1曲も入っていないものの、メロディが歌われている曲はやはりイギー一流のロックだ。
(フランク・シナトラ大好きなイギーの面目躍如といった感じのバラード「Page」は、かつて坂本龍一と一緒にやった「Risky」を思い出す人もいるかも知れない)
深いエコー感を聴かせる音作りには90年代の傑作『AMERICAN CAESAR』(1993年)と共通するモノを感じたりも。
しかし長尺だった『AMERICAN CAESAR』に較べると遥かにシンプルな作りのアルバムで、またそれが良い。

こうして聴いてくると、幾つか例を挙げたように、今までと違うアプローチ、新しい方向性のアルバム…でありながら、ひとつひとつの要素は(偶然かも知れないが)これまでにリリースされたイギー・ポップの作品群から巧みに取捨されて統合されているような印象もある。
かつ、確実に新しい一面を感じさせるアルバム。
「James Bond」や「Dirty Sanchez」のちょっとユーモラスな感じなんかは、今までにあまりなかったテイストだ。
72歳のイギー…いまだに進化/深化を続けている。

アルバムのラストを飾るのは「The Dawn」。
すると、イギー・ポップのシルエットが海に入って行こうとしているのか、海から上がってこようとしているのか、一見して判別出来ないジャケット写真…は、とにかく明け方の情景だということだけがわかる。
このジャケット写真は、イギーの筋張った手(爪が汚れているのが見える)が写る裏ジャケットの写真共々、イギーを主役とする短編映画『THE DAWN』からのモノだという。
その映画、是非観たいですね。

それにしても、ジョシュ・ホーミ(QUEENS OF THE STONE AGE)を中心とする素晴らしいメンバーたちと『POST POP DEPRESSION』という傑作をモノにしながら「だが一方で俺は力尽きたように感じていた」「俺は自由になりたかった」と言って、次のアルバムに『FREE』なんてタイトルを付けてしまうイギー・ポップ。
なんて業の深い男だろう…。

『FREE』、9月18日より発売中。


(2019.10.11.改訂)

GENYA RAVAN/ICON

GENYA RAVAN.jpg7月のリリース、先月入手。

ジェニア・レイヴァンの新作!
…と言ってもピンとこない人の方が多い気もするが。

本名ジェニューシャ・ゼルコヴィクス。
1945年、ポーランド出身。
60年代初頭にはシェル・タルミーがプロデュースしたガールズ・バンドGOLDIE AND THE GINGERBREADSで、60年代後半から70年代初頭にかけてはブラス・ロック・バンドTEN WHEEL DRIVEで活動。
その後ソロ活動の傍ら、シーンでも珍しい女性プロデューサーとして、DEAD BOYS『YOUNG LOUD AND SNOTTY』(77年)などを手掛け。
ルー・リード『STREET HASTLE』(78年)にもゲスト参加。
80年代以降はほとんど名前を見ることもなくなっていたが、プロデューサーとしての活動は続けていて、21世紀になってからシンガーとしても再び活動している様子。
このアルバムはもちろんジェニア・レイヴァン自身がプロデュースしている。

現在率いているバンドはなんとトリプル・ギター編成で、更に元STEELY DANのエリオット・ランドール(ギター)をはじめとする多数のゲストが参加している。
ドラムのボビー・チェンは70年代後半のジェニア・レイヴァンのアルバムでも叩いていた人。

1曲目「Comin Up The Hard Way」がミドルのラテン・ロックっぽい曲で、「ふーむ」と思いながら聴いていたら、続く「Don't Go In The Bathroom」がデトロイト・ロックっぽくハードにドライヴするR&Rで「おお?」となる。
ジェニア・レイヴァンのヴォーカルもこの4月で74歳(!)になったとは思えないパワフルさ。
元JOAN JETT & THE BLACK HEARTSのギタリスト、リッキー・バードとの共作曲「Enough Is Enough」はかつてジェニアがプロデュースしたロニー・スペクターみたいな歌で始まり、THE ROLLING STONES風のR&Rを聴かせる。
「Gypsy Caravan」はちょっとニューオーリンズっぽい。

収録曲はオリジナルとカヴァーが半々で、そのカヴァーがまた興味深い。
ジーン・チャンドラーの60年代ソウル・ナンバー「Fooled You This Time」があるかと思えば、いきなりエルヴィス・コステロ(!)の「Pump It Up」が飛び出したり。
(鋭いギター・ソロはエリオット・ランドールだろう)
メンフィスで70年代に活動していたLARRY RASPBERRY & THE HIGHSTEPPERS(全然知らん…)の「Hard Way Out」はソウル・バラード風。
ハードに畳み掛ける「He Got Me(When He Got His Pants On)」は、KYUSSやQUEENS OF THE STONE AGEのプロデューサーとして知られるクリスチャン・ゴスがやっていたストーナー・バンドMASTERS OF REALITYの「She Got Me(When She Got Her Dress On)」のタイトルと歌詞を変えたモノ。
そしてアルバム終盤はフランキー・ミラー「When I'm Away From You」とHUMBLE PIE「Fool For A Pretty Face」のカヴァーでシメる。
その「Fool For A Pretty Face」、HUMBLE PIEの全盛期ではなく、敢えて1980年の再結成アルバム『ON TO VICTORY』から選曲しているあたりが渋いというかなんというか。

とにかくジェニア・レイヴァンの年齢を感じさせないストロングなヴォーカルに驚かされる。
演奏も全体にずっしりヘヴィで、聴き応えアリ。
ナイスな1枚。

THE CARS/SHAKE IT UP(1981)

CARS.jpg先日も書いたとおり、このアルバムがヒットしていた頃、俺はTHE CARSを知らなかった。
『HEARTBEAT CITY』(1984年)からの「You Might Think」がヒットした時に、ああこのバンド、有線やラジオでよくかかってた「Shake It Up」って曲の人たちか…と。

ともあれ、デビュー以来の好調を維持し続けたTHE CARS、それまでのプロデューサーだったロイ・トーマス・ベイカーとの最後の仕事となった4thアルバム。
タイトル曲は全米4位、アルバム自体も9位となった。

メンバーはレコード・デビューから解散まで不動の5人、リック・オケイセック(ヴォーカル、リズム・ギター)、エリオット・イーストン(リード・ギター)、ベンジャミン・オール(ヴォーカル、ベース)、グレッグ・ホークス(キーボード)、デイヴィッド・ロビンソン(ドラム)。
それぞれにキャリアがありながら商業的成功とは無縁だった人たちが、このバンドでは最初から時代とかみ合っていた。
(1976年にTHE CARSを結成した時点で、リックは既に32歳。ちなみにデイヴィッドは元THE MODERN LOVERS~DMZというボストン・パンク界出身者)

キャッチーなロックとニュー・ウェイヴ的センスの融合。
あるいは50~60年代の根っこを残したR&Rとエレクトロニクスの融合。
アメリカのニュー・ウェイヴと言えば同時代にはTALKING HEADSがいたが、THE CARSは彼らのようにロック史上に名を残す変革者ではなかった一方で、親しみやすさでは圧勝。
R&Rとエレクトロニクスの融合ということで言えば、リック・オケイセックがSUICIDE/アラン・ヴェガをプロデュースしたのも納得というか。

アルバムのチャート・アクションは最初から上々だったが、シングルが全米トップ10に入ったのは「Shake It Up」が初めて。
その「Shake It Up」含めたアルバム全体、改めて聴くといかにも1981年のサウンドという感じで、音作り自体は正直言って古臭く感じてしまうものの。
(特にグレッグ・ホークスのシンセサイザー)
しかしキャッチーかつクールなソングライティングのセンスは今聴いても実に素晴らしい。
大半の曲をリック・オケイセックが書いている一方で、ベンジャミン・オールというリックとまったく持ち味の違うシンガーがいたのもイイ方向に働いたと思う。
あと、エリオット・イーストンの非凡なリフとソロ。
特に「Since You're Gone」のソロなんて、ビル・ネルソンかと。
こんな風に弾ける人、特にアメリカ人だとなかなかいない気がする。

1978年の『THE CARS』以降、1年に1枚のペースでロイ・トーマス・ベイカーとアルバムを作ってきたTHE CARSだったが、『SHAKE IT UP』以後は3年近く間が空き、新たにロバート・ジョン・マット・ランジと組んだ『HEARTBEAT CITY』でキャリアのピークを迎えることになる。