映画『グッド・ヴァイブレーションズ』

画像THE UNDERTONESを輩出したことで、70年代のUKパンクをある程度掘り下げた人なら御存知であろうレーベル、グッド・ヴァイブレーションズ。
本作はそのオーナーであるテリー・フーリーの、70年代半ば~80年代初頭の数年間を切り取った、伝記的な映画。
(“伝記映画”と言うよりは“伝記的な映画”と言うべきだろう)

映画の制作は2012年で、英国で公開されたのは13年という。
けっこう前の作品だが、昨年日本国内での自主上映企画“アイルランド映画が描く「真摯な痛み」”で上映されたのをきっかけに、日本での劇場公開が実現することになったのだそうで。
(ちょっと前に紹介した映画『ノーザン・ソウル』と同じような経緯だ)

THE ROLLING STONESやTHE KINKSといった英国のロック・バンドや、THE SHANGRI-LASなどの60年代ポップスを愛する青年、テリー・フーリー(リチャード・ドーマー)。
60年代からDJをやっていて、最近になってルース(ジョディ・ウィッテカー)という素敵な彼女も出来た。
ほどなくルースと結婚したテリーは、生計を立てるためにレコード店を開こうと考える。

それだけなら何処の国の音楽好きにも共通な話だが、ただひとつ違っていたのは、テリー・フーリーが住んでいたのが北アイルランドのベルファストだったということ。
当時の北アイルランドはカソリックとプロテスタントの宗教対立による紛争の真っただ中。
テリーがレコード店グッド・ヴァイブレーションズを開店した1977年は、北アイルランドにツアーにやって来たアイルランドのTHE MIAMI SHOWBANDのメンバーたちがプロテスタント系の右派武装勢力・アルスター義勇軍に殺害されてから2年後だった。
事件の後、北アイルランドを訪れるツアー・バンドは激減、おまけに街の中は紛争のためあちこちが廃墟のような状態。
60年代は宗派の隔てなく付き合っていた友人たちも敵味方に分かれ、テリーがDJを務めるバーを訪れる者もほとんどなく。
テリーはそんな中でレコード店を開いたのだった。

一方テリー・フーリーが店を開いた1977年は、英国をパンク・ロックが席巻した年でもあり。
ライヴハウスに出かけたテリーは、そのパンクの波がベルファストにも押し寄せていることを知る。
そしてハコに出入りする未成年者を摘発しようとやって来た警官たちに、ステージ上のパンク・バンド(RUDI)とフロアを埋め尽くした若者たちが決然とノーを突きつける様に、かつてない感動を覚えることに。

レコード契約などあるはずもなかったRUDIのため、テリー・フーリーは自分の手で彼らのレコードを作ることを決意し、自身の店の名を冠したレーベル、グッド・ヴァイブレーションズを立ち上げる。
RUDIやTHE OUTCASTSのレコードをリリースした後、大して期待もせずに付き合ったTHE UNDERTONESが演奏した「Teenage Kicks」は、テリーとレコーディング・エンジニアのデイヴィー(リーアム・カニンガム)の心を激しく揺さぶり。

THE UNDERTONESのレコードを世に広めるためロンドンに渡ったテリー・フーリーだったが、大手レコード会社は何処も相手にしてくれず。
最後に訪れたBBCで、UNDERTONESのレコードはほとんど偶然のような成り行きでトップDJ、ジョン・ピールの手に渡り、そして…。
…というのが前半のあらすじ。

それにしてもこのテリー・フーリーという人…理想主義者の純粋さで一点突破し続ける熱血漢だが、逆に言えば現実が全然見えていない大馬鹿野郎でもあり。
理想主義者ゆえに大儲けなどはまったく考えず、メジャー進出することになったTHE UNDERTONESの版権も破格の安値で売り渡してしまう。
そんな具合だから店やレーベルの経営は立ち行かなくなるし、猪突猛進が過ぎて妻ルースや親友デイヴ(マイケル・コーガン)、そしてバンドたちとの関係も壊れて行き。

しかしテリー・フーリー、本当にピュアな人だ。
どうにも憎めない、愛すべき大馬鹿野郎。
店の経営を立て直すために企画した大きなギグでは、会場前に集まった金のないファンたちをあらかた無料で入場させてしまって大赤字とか(苦笑)。
万事がそんな調子なので、映画を観ている間、こっちはテリーの成功物語に涙して喜び、運命の暗転にはらはらし、事態が何とか収まるとほっと安堵し…というのを繰り返すことになる。
しかもこれが実話に基づくというのだから。
エンドロールのクレジットでは、この映画はテリーの物語に“インスパイアされた”云々…とあったので、全部が全部実話そのままではないと思うが、山あり谷ありの物語に仕立てた脚本(コリン・カーベリー&グレン・パターソン)の良さもあるのだろう。
(実際俺も途中でかなり涙を流した)

笑えて泣けて、そしてちょっと苦い後味も残る映画。
キリスト教とイスラム教どころか、カソリックとプロテスタントというキリスト教徒同士、そして元々は隣人や友人だったはずの人たちが血で血を洗う紛争を繰り返した北アイルランドの現実の重みには思わずぞっとするし。
(多くのニュース映像が用いられている)
しかも諸々がテリー・フーリーの楽天性とか楽観主義とかキャラクターで何とかなってる気がするだけで、実際には何も解決してないケースが多過ぎ(苦笑)。
それでも楽しく観られてしまう。
本物のテリーは70歳の今も元気に暮らしているそうなので、どなたも安心して観てください(笑)。

映画を彩るTHE UNDERTONESやRUDIやTHE OUTCASTS(近々来日だったよな)の楽曲も改めて素晴らしいし、それ以外の楽曲の使い方も実にナイス。
特にSUICIDEの「Dream Baby Dream」をここで使うか…というのにはちょっと笑ってしまった。
あと、元々パンク以前の音楽が好きだったテリー・フーリーの前に突然現れるハンク・ウィリアムズ、の図もユニーク。
(『アイデン&ティティ』に出てくるボブ・ディランみたいな)

それと、実在の人物たちがモデルになっている映画なんで、テリー・フーリー&ルースをはじめとして、フィアガル・シャーキー(THE UNDERTONES)やスージー・スーやジョン・ピールなんかも各々俳優が演じているワケだけど。
みんな微妙に似てたり似てなかったり、が微笑ましかったりも。

70年代UKパンクが好きならもちろん必見の映画。
いや、パンクが、というよりもロックが好きな多くの人に観てほしい1本。
8月3日(土)より新宿シネマカリテを皮切りに全国順次公開。


(C)Canderblinks (Vibes) Limited / Treasure Entertainment Limited 2012

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