室井大資インタヴュー(その1)

秋津.jpg岩明均原作の『レイリ』では作画を務め、『バイオレンスアクション』(浅井蓮次・画)では原作(“沢田新”名義)を担当する人気漫画家・室井大資。
『レイリ』の連載完結と『バイオレンスアクション』の連載再開というタイミングで、その室井氏にインタヴューしました。
20000字近いロング・インタヴュー、3回に分けてお送りします。
まずは第1回、少年期~青年期の漫画体験をはじめとする『レイリ』以前の話を。
お楽しみください。

(2019年6月17日・杉並区某所)


―『レイリ』連載終了、お疲れ様でした。
室井「ありがとうございます」
―トークショーとか、わりと積極的に出てる印象があるんですけど。
室井「そうですね。寂しいから(笑)」
―ただ、ニコ生をその時観た人や、トークショーに来た人しか観られない、聞けない。今回は室井さんの肉声を、改めて聞かせていただこうと思うんです。
室井「はい」

―そもそも、漫画家を目指したのはいつ頃なんですか?
室井「なるもんだと思ってたんで…特に、目指したきっかけっていうのは、ないです」
―子供の頃からずっと?
室井「そうですね」
―その頃影響を受けた漫画家さんっていうのは?
室井「いつぐらいですか?」
―漫画家を目指す過程で。デビューまでの。
室井「やっぱり順当に、藤子不二雄に耽溺していて、好きで。そのうち子供ながらに「あっ、ここはアシスタントが描いてる絵だ!」って判別つくようになって(笑)」
―嫌なファンだな…。
室井「(笑)そのうちAとFって別れたじゃないですか。俺はFが好きだったんだなっていうのが、凄く…。20歳ぐらいの頃に藤子・F・不二雄の短編集っていうのを読んで、更に“F好き”っていうのが固まって。Aの方はけっこう残酷なことやるんだけど、チャイルディッシュで無邪気。Fの方はもうちょっと、シニカルで奥深いっていう感じ。奥行きの深さに、凄く感じ入ったっていうか」
―SF短編とかで『ドラえもん』とかとまるっきり同じ絵柄なのにけっこうエグいこと描いたり…。
室井「エグいというか…皮肉というか奥行きを持っている人だからこそ、本当に美しいものを描けるんじゃないかって思います。『ドラえもん』の美しいエピソードとか、その他の作品群とか、素晴らしいですね。子供に向けて丁寧に描いた作品」
―はい。

室井「あとは『北斗の拳』とか『奇面組』とか『こち亀』とか…」
―本当に順当過ぎる!
室井「王道ですよ(笑)。幼少期の頃は、その頃普通に流行っている漫画…『キン肉マン』『北斗の拳』。『DRAGON BALL』は、10歳ぐらいだったけどあんまりハマんなくて。あとは荒木飛呂彦が大好きで…」
―ああ。
室井「当時、すげえカッコいいんだけど絶対コレ連載続かねえだろうなっていう…(笑)」
―はい。
室井「『魔少年ビーティー』とか『バオー来訪者』とか…」
―『ゴージャス☆アイリン』とか?
室井「『ゴージャス☆アイリン』!…最高でさ(笑)。『ジョジョ』の1部が始まった時に「俺は大好きだけど絶対すぐ終わる!」って思って(笑)」
―思った思った(笑)。
室井「(笑)2部で化けたんですよね。ストーリーじゃなくて、キャラクターに目線をシフトしたっていう。どんどん「このキャラクターの先が見たい」みたいな感じって…ジョセフってホントに魅力的なキャラクターだったじゃないですか。1部って、いつ終わるかいつ終わるかって…ずっと後ろでさあ、ジャンプの掲載順が。ハラハラしながら見てて。「俺は好きなんだけどー!」っていう…」
―わかるわかる(笑)。
室井「当時、巻来功士さんが『メタルK』っていうのをやってて。アレとおんなじような感じ。『メタルK』ってのも10週で終わっちゃった、渋くて大好きな漫画だったんですけど。巻来功士さんって、最近になって自伝的な漫画出して(『連載終了!』)。そのあとがきで、当時のジャンプの編集長との対談っていうのがあって。
―へえ!
室井「そこで編集長が「巻来くんは縦糸の人で、荒木先生は横糸の人だ」っていう…巻来功士さんはストーリーは上手いけどキャラクターが不得手で。荒木さんもストーリーの人だったんだけど、自覚してキャラクターにシフトして行ったから売れたんだよっていうのを丁寧に説明してて」

―手塚治虫は?
室井「あんまり好きじゃなかったんですよね。4歳ぐらいの頃に、当時大学生の叔父さんちで…大学生がチャンピオンすげえ買ってたんですよね。それを納屋かなんかで見て…『がきデカ』と『ブラックジャック』、すげえ気持ち悪いと思って(笑)。さっぱりしてるものが好きだから。『ブラックジャック』は、20歳ぐらいからですよ。20歳で凄く感動して。そこから手塚治虫とか楳図かずおとか掘り始めたり」
―はい。
室井「自覚的に、ちゃんと職業漫画家になりたいと思った時期に読み始めたのはガロの作品とか…当時、90年代初頭って、オルタナティブ・コミック・ブームっていうか、COMIC CUEとか…いろいろあったじゃないですか」
―ああ。
室井「いろんな…漫画にはいろんな可能性があるんだっていうさ。よしもとよしともとか。ニューウェーブ系作家?とか、そのへんが世代だったんで。でも、よしもとよしともを読んだおかげで俺はねえ、食えるのが10年遅れたと思ってるんですよ(苦笑)」
―そうなんだ(笑)。
室井「変な夢を見させ過ぎてくれちゃったって感じがする(苦笑)。オルタナティブな魅力っていうのを知っちゃったおかげで、裏へ裏へ行っちゃうような感じになっちゃったっていうか。だから、よしもとよしともは恨んでる(笑)。愛憎半ばというか。でもその代わり、10年食える寿命が延びたとも言える…かな」
―ああ、なるほど。
室井「ガロで言ったら93年ぐらい…ガロが終わる前ぐらいに買い始めて。大学(武蔵野美術大学)でも漫研に入って。誰が好きだったかな。Q.B.B.…久住昌之とか、もちろん根本敬。あとは逆柱いみりとかねこぢるとか…。田口トモロヲが描いてた、ヒットマンがカチコミかけて、ヤクザを撃ち殺してから、8ページぐらい内臓がドバーっていうページが続くような漫画とかすげえ面白かったですけどね。あとは谷弘児の『薔薇と拳銃』とかも面白かったし。いろんなそういうオルタナティブな面白さっていうのが…当時は鬼畜ブームとかもあったじゃないですか」
―はい。
室井「ああいうのも、普通に楽しく(笑)…面白かったですね、サブカルチャー。QUICK JAPANとかGON!とかも創刊当時で。読む雑誌全部面白くて」

―少年時代は王道から入って、20歳ぐらいでそういうオルターナティヴに流れる…。
室井「そうですね、でも16歳ぐらいが一番漫画を買ってて、一番読んでましたね。あ! その頃は『うしおととら』が一番好きだったかも知れない」
―やっぱりオルターナティヴな方向に行くと、商業的には難しく…。
室井「もちろんそうですよ(苦笑)。でもねえ、その当時から、ちゃんと端正なものが凄く好きだった。ちゃんと調律の効いた、エンターテインメント。細野不二彦さんとか、ちゃんと面白いじゃないですか。鶴見済がバリバリにライターやってた頃、ひどいこと言ってて。「細野不二彦なんて、常に70点のものしか描けない、あんまり期待値がない作家だ」みたいなことをSPA!か何かに書いてたんですよ。すげえ腹が立って。70点を維持出来るのがどれだけ凄いことかっていうさ。そんで70点じゃねえし!…細野不二彦さんとか、凄い面白いですよあの人。手塚治虫の直系みたいな人でさ。…高橋留美子も好きでした」
―これまた王道。
室井「俺、根っこは多分高橋留美子ですね。あの人、ホントに居心地のいい場所を作るのが凄く上手いっていうか。人魚シリーズとかも最高ですしね。泣いちゃいますよね(笑)」

―…で、話を端折って。2000年にデビューされたワケですけど。
室井「はい」
―それからもう、来年で20年。
室井「ホントですね…!」
―多彩、かつ、わりと王道寄りな影響源からも納得出来るところなんですけど、この20年近く…作品数は、そんなにもの凄く多くはないと思うんですけど、凄く多彩なジャンルを描いているワケじゃないですか。
室井「うん」
―ホラータッチあり、コメディあり。“SF作家”とか“ギャグ漫画家”とか、そういう人たちがいる一方で、室井さんはある意味オールラウンドなところがあるんですけど、そのあたり、自分ではどのように…?
室井「オールラウンドなところを、自分がちょっと鼻にかけてた部分があるんですよ。「俺、何でも出来るじゃん?」って。個性って、複合的な影響を自分なりに、吟味して抽出した結果だと思ってるんですね。影響元が多いんで…90年代のアクション映画とか、“不条理”ギャグブームとか、80~90年代のエッセイ文化とか、「ごっつええ感じ」とか、アメリカンコメディとか、AMラジオとか、もちろんアニメや漫画、小説も。なので、その都度引き出しを漁れば何かしら出てくるんで。俺は、別にジャンルは何でもいいのは、描きたいのがキャラクターだから。人間関係。人と人とがぶつかって祖語とか葛藤とか融和を繰り返すような、そういう関係性が描きたいんで。そこにおいてジャンルは何でもいいっていうか、そこがオフィスでも、宇宙船の中でも、舞台は何でもいい。例えばバイオレンスのヤクザものを描いてる時に、児童誌から依頼が来たり…「子供向けの4コマを描いてください」みたいな(笑)。そういう自分がちょっといいなと思ってたんだけど。そうすっと食えないですよね…」
―食えない?
室井「そう(苦笑)。こういうジャンルだったらこいつだ、っていうのがないから」
―ジャンルに特化してないから…。
室井「そうそう」
―逆に食えない?
室生「そう。小器用なのを鼻にかけてたんですけど、別に、何もいいことないですよ(苦笑)。作家買いされる時代でもないですし…」

―俺が室井大資っていう漫画家を自覚的に読んだのが、けっこう遅くて…2011年かな、「エバタのロック」の最初の読み切りの時。
室井「はい」
―あの頃『エバタのロック』があって、ほぼ同時に『秋津』があって。
室井「そうですね、はい」
―その頃、室井大資という存在はわりとコメディの人という認識が広くあったと思うんですけど。
室井「っていうか、そこまでのバリューも知名度もないんで(苦笑)。知らねえ作家がワチャワチャやってるってだけだったですよ…」
―そうですか?
室井「ええ…」
―俺はそこから遡って『イヌジニン』を読んで、全然違うなと。で、当時の室井さんはコメディを多く描いてましたけど…いわゆるギャグではなく。
室井「ギャグっていうのが何故難しいかっていうと、人生から切り離されて屹立する瞬間を切り取るっていうか…コメディっていうのは、人生や人間関係の中から漏れ伝わる悲喜こもごもっていうのを描く訳で。ギャグっていうのは、人生から直角に浮上する、凄くエクストリームな瞬間を描く訳で。それっていうのは単純に感性のものなんで。感性っていうのは必ず劣化するんで(苦笑)」
―ああ…。
室井「だから俺はずっとギャグを描いてるつもりはなくて、コメディしか出来ない。ギャグを描いてる人尊敬します。榎本俊二さんとかホントに凄いと思いますね。…榎本俊二さん、当時電気グルーヴにめちゃめちゃ嫌われててね(笑)、ラジオですげえ悪口言われてたんですよね」
―榎本俊二が?
室井「そうそう(笑)。「『GOLDEN LUCKY』つまんねえ」って。俺、電気もどっちも好きだったからさ…。最近、買い直したんですよ『GOLDEN LUCKY』。フィジカルな、身体性を軸にした、王道のギャグなんですよ。『えの素』もそうだけど。凄く面白くて。ギャグの根源というか、それを滅茶苦茶頭のいい人が、異化作用を狙いつつちゃんと再構築したっていう、ホントにカッコいい作品で。ギャグ描いてる人は凄いですよね。相原コージさんや徳弘正也さんなんかもすげーカッコいいと思います」

―ギャグ漫画家って、えてして長持ちしないっていうか…。
室井「それはさっき言った、感性が疲弊しちゃうっていうとこで」
―古谷実がシリアスな方向に行ったりとかも…?
室井「古谷実さんも凄いじゃないですか。だから、ギャグの感性というか、人生に対して屹立するような感性っていうのは、徐々に摩耗して行くとは思うんですけど、その分洞察力や瞬発力っていうのは残ると思うんですよ。反射神経とか…それをシリアスに活かしてるっていう感じ。ホントに古谷さんは最高ですよ。俺ね、『稲中』以外全部読んでるんですよ」
―『稲中』読んでない?
室井「読んでないの(笑)。20歳ぐらいの頃…『スラムダンク』とか『マサルさん』とか『稲中』とか松本大洋とか、あのへん悔しくて全部読んでない(苦笑)」
―(笑)…シリアスに転じた少ない成功例?
室井「そんなこともないと思いますよ。そういうギャグセンスを持っている人が、ストーリーに転向するっていう例は幾らでもありますし」
―いがらしみきおとか?
室井「そうですね。転向したっていう訳ではないと思いますが。いがらしみきおさんが俺の“上位互換”だと思いますよ(笑)。いがらしみきおさんは凄いですね。岩明均さんと話して「お好きな作家いらっしゃいますか?」…唯一リンクしたのが、いがらしみきおさんで」
―おお…なんとなくわかるような気がしなくもない。今なんとなく、岩明均原作、いがらしみきお作画ってのもアリだなと…。
室井「ビッグコミックでね!(笑)」


以下、“その2”に続く。
どうぞお楽しみに。


※インタヴューその2
https://lsd-blog.at.webry.info/201907/article_8.html

※インタヴューその3
https://lsd-blog.at.webry.info/201907/article_9.html

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この記事へのコメント

室井大資
2019年07月12日 17:06
室井先生がこれほど理知的な方とは・・・。嘆息いたしました1