映画『サン・ラーのスペース・イズ・ザ・プレイス』

SUN RA.jpg土星からやって来て20世紀後半を通じて摩訶不思議な音楽を奏で、1993年に土星へと還って行った宇宙音楽王にして太陽神サン・ラー。
このブログでも彼の初期音源集を紹介したことがある。
https://lsd-blog.at.webry.info/201607/article_126.html?pc=on

そのサン・ラーが70年代に主演した映画が、半世紀近く経って遂に日本公開となる。
現存する唯一の35mmプリントからスキャンして作られたデジタル画像で、90年代に発売されたVHSよりも20分長い”完全版”である一方、オリジナルのフィルムの状態を最大限再現するため、レストアの類は一切行なわれていないとのこと。

映画自体は、当時流行した”ブラックスプロイテーション”に属するモノと言っていいだろう。
ただしストーリーらしいストーリーはあってないような。

…70年代のある日、1969年にヨーロッパで消息を絶って以降は宇宙を旅していると噂されていたサン・ラーが宇宙船で地球(というかアメリカというか)に帰還する。
音楽をエネルギー源として宇宙を飛び回っていたサン・ラーは理想的な惑星を発見し、黒人同胞をその惑星に移送して理想郷を創るべく、地球に戻ってきたのだ。
サン・ラーは”宇宙職業紹介所”(OUTER SPACE EMPLOYMENT AGENCY)を開設し、人材の募集を始めるが、やってくる人々は誰もサン・ラーの言うことを理解出来ない。
一方でサン・ラーが惑星への移送の手段としていた”トランス分子化/同位体瞬間移動”の秘密を手に入れようと、NASAが暗躍を始める…。

…みたいな感じ。
コレだけ書いてもさっぱり、ではないかと。
正直、ストーリーは問題じゃないのだと思う。

ストーリーはよくわからんが。
しかしサン・ラーだけではなく、P-FUNK勢からEARTH, WIND & FIREに至る黒人ミュージシャンたちの多くが、どうして宇宙的なイメージを打ち出していたのか、この映画を観ると本当によくわかる。
この映画の中で、サン・ラーは自分を含めたアメリカ黒人の立場を”この社会には存在しない”と断言する。
差別と抑圧の下にいるアフリカン・アメリカンの尊厳は現実世界にはなく。
理想の世界は宇宙にこそ存在するのだと。
”SPACE IS THE PLACE”(宇宙こそがその場所)というワケだ。
60年代デトロイトの黒人暴動のように銃を持って”復讐”に立ち上がる道を選ばずに、音楽と平和を希求した黒人ミュージシャンたち…そのために彼らが求めた理想郷が宇宙だったし、逆の言い方をすれば、彼らには夢の世界に希望を求めるしかなかったのだ。
1914年にこの地球上に姿を現し、大戦間(第二次大戦後以上に黒人に対する差別は激しかったはず)にミュージシャンとして活動を始めたサン・ラー(この映画の時点で既に60歳)には、映画に登場する若い黒人たち以上に理不尽な現実が身に染みていたはず。

そして黒人を抑圧する敵は白人だけではない。
この映画には同じ黒人でありながらサン・ラーと対立し嘲笑う”監視者”が登場する。
作中では、サン・ラーと監視者の対立は、サン・ラーがまだ”サニー・レイ”と名乗っていた1940年代から続いている。
何を”監視”するのか。
白いスーツに身を包んで高級車を乗り回す、ポン引きの大立者である監視者は、多くの貧しい黒人を差別と抑圧の構造の中に押し込めて、上がりを掠め取る簒奪者であり、そのためむしろ積極的に差別と抑圧のシステムを維持しようとする側だ。
(うなるほどの金があれば白人の女も抱き放題)
そのための”監視”だろう。
(サン・ラーと監視者が作中で続けるルール不明のカードゲームが不気味で面白い)

そんな苦い現実を奇想天外な物語で笑いのめそうというのがこの映画、なのかも知れない。
(もっともサン・ラー自身は奇想天外とも笑わせようとも思っていないのではと)

何より、随所にフィーチュアされるSUN RA AND HIS ARKESTRAの音楽。
時にスウィンギーであり、一方でアヴァンギャルド、そして一番にアフロセントリック。
そして音楽を通じ、もうひとつの運命とよりよい生き方への希望を提示しようとする、サン・ラーとジューン・タイソンの歌唱とアジテーション。
ジョン・ギルモアやマーシャル・アレンといったARKESTRAメンバーの若き日の姿も見もの。
演奏シーンはそれほど多くはないものの、このブログをチェックしているような皆様にはそれこそがハイライトとなるはず。

SUN RA AND HIS ARKESTRAはサン・ラーが土星に帰還する5年前の1988年に来日している。
当時のライヴはFMで聴いた。
スウィンギーで楽しい演奏だったが。
その楽しい演奏も、苦い現実から目を逸らさないままもうひとつの世界を提示するという、彼らの生きざまだったのだなあと、今更ながらに思う。

サン・ラーのファンはもちろんのこと、宇宙人のカッコしてヘンな音楽やってる人、ぐらいの認識の人にも是非観てほしい1本です。
2021年1月29日(金)より、アップリンク吉祥寺、新宿シネマカリテ、シネマート心斎橋にて公開。


『サン・ラーのスペース・イズ・ザ・プレイス』
1974 年|アメリカ映画|81 分|スタンダードサイズ|モノラル|PG12|北アメリカ恒星系プロダクション作品
原題:SPACE IS THE PLACE(宇宙こそ我が故郷)
キングレコード提供
ビーズインターナショナル配給
© A North American Star System Production / Rapid Eye Movies


(2021.1.15.改訂)

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 1

なるほど(納得、参考になった、ヘー)

この記事へのコメント

大越よしはる
2021年01月15日 00:40
こちら緊急事態宣言を受けて3月5日(金)からの公開に変更となりました…。