映画『Tribe Called Discord~Documentary of GEZAN~』

画像日本のアンダーグラウンド・シーンを賑わせるバンド・GEZANのドキュメンタリー映画…の体のようでいて、結果的に一バンドのドキュメンタリーにとどまらない、世界に横たわる大きくて重苦しい現実を“捉えてしまった”1本。
そして、それらに対しどう対峙していくのかというバンドの生き様も描かれる。

俺はGEZANをちゃんと聴いたことがなかったのだが、ヴォーカリスト、マヒトゥ・ザ・ピーポーがFOLLOW-UP(もうない)で連載していたコラムは興味深く読んでいた。
そのGEZAN、昨年春にクラウドファンディングで300万円を調達し、アメリカ・ツアーとスティーヴ・アルビニによるアルバムのレコーディングを実現する。
バンドの盟友である映像作家“パンチでるお”こと神谷亮佑はカメラ1台を手にして彼らのツアーに同行することになる。

このアメリカ・ツアーというのがなかなかとんでもない。
EL ZINEなんかで読める日本のインディ・バンドの海外ツアー・レポートを読むと、移動に際して現地の誰かが車を出してくれたりすることが多いようだが、GEZANは自分たちでレンタカーを借りて自分たちの運転でアメリカ国内を移動したらしく。
しかも泊まる場所はライヴ会場で知り合った誰かに頼み込んでその日に決定するという。
どんだけDIYなんだよ。
(英語もそんなに出来ないのに…)

これまたEL ZINE読者の人なんかはわかると思うが、アメリカでのライヴ会場はいきなり誰かの家だったり、なんてことがGEZANのツアーでも実際にあり。
映画の中では、明らかにライヴハウスではない場所での演奏シーンが何度も挿まれる。
文章や写真で見ることがほとんどだったアメリカでのDIYなツアーの様子が映像で知れるのは実に興味深い。

そんなツアーの日々、GEZANは何処でも歓迎される。
一方で彼らは、アメリカに根深い人種差別と人種間の憎悪がいまだにわだかまっている、その事実を随所で目撃することになる。
白人もネイティヴ・アメリカンもGEZANに温かく接する…しかし何世代にもわたって簒奪と虐待を受けてきたネイティヴ・アメリカンの多くにとって、白人は今も敵でしかない。
覆しようのない、あまりにも大きく重いアメリカの歴史と現実。
(そしてそれはアメリカに限った話ではない)
“正義の反対はもう1個の正義”と考えていたマヒトゥ・ザ・ピーポーも、重過ぎる現実を目の当たりにしてただそれまでと同じ考えのままでいることは出来ず。
メンバー各々が葛藤を背負って帰国することになる。

それは“でるお”にとっても同じだった。
帰国後、アメリカでの映像を作品化すべく編集に取り掛かったでるおだったが、出会ってしまった現実を作品にどのように落とし込むのか、そもそもそんなモノが面白い作品になるのか…何もかもがわからなくなってしまったでるおは、遂に何もかもを放り出して音信が途絶、ドキュメンタリーの制作は暗礁に乗り上げる。

ここからはネタバレを避けるべく、その後のお話については触れないが、実際のところ映画はこうして完成しているのだから、ひどい結末になっていないことは誰でもわかるだろう。
個人的にはでるおが音信不通となって以後のマヒトゥ・ザ・ピーポーの行動に驚かされた。
正直、ちょっとした違和感のようなモノもあった。
コレについては「出来過ぎ」とか、ある意味「あざとい」と感じる人もいるかも知れない。
そこは実際にこの映画を観て、考えてほしいと思う。
ともあれそのマヒトゥの動きがなければ、映画の出来上がりはまったく違ったモノになっていたはずだし、ひょっとしたら完成すらしていなかったかも知れない。
つまりマヒトゥのその行動が結局はこの映画を救うことになったのかと。

ともあれどうしてもわかり合えない人々、赦し合えない人々が存在する地球の現実に対して、音楽をやっている自分たちに出来ることは何か、音楽の力とは何なのか…そんな、答えの出るはずもない問題に向かって、正解を出せないまま真摯に対峙し続けようとするマヒトゥ・ザ・ピーポーの、GEZANのアティテュード。
そんな彼らのアティテュードは、映画の終盤に捉えられたGEZAN主催のDIY野外フェスティヴァル「全感覚祭」の模様…ごちゃ混ぜでポジティヴでハッピーな祝祭、その中に垣間見えるような気がする。
(ステージのシーン及びインタヴューにはTHE NOVEMBERS、踊ってばかりの国、呂布カルマなど多数登場)
重いテーマを扱っている作品だが、かと言って重苦しい作品ではない、という点は強調しておこう。

プロデューサーとしてクレジットされているのは、マヒトゥ・ザ・ピーポーの文章に注目していたというカンパニー松尾。
(AVの監督で有名なあの人)
彼の後押しがあって、この作品は劇場公開の運びとなったのだそうで。

GEZANのファンや「全感覚祭」に登場するバンドのファンだけが観ればいい作品にはなっていない。
アメリカのアンダーグラウンド/インディペンデントな現場を映像で観たい人にももってこいだし、例えば最近問題になっている、ジョン・レノン「Imagine」をけなすことで世の中をわかっているような面をする馬鹿どもに嫌悪感しか抱かないような人、何よりロックや音楽に自覚的に向かい合おうとしているすべての人たちにお勧めしたい、ある意味問題作。

『Tribe Called Discord~Documentary of GEZAN~』、6月21日(金)よりシネマート新宿を皮切りに全国順次公開。


(C)2019 十三月/SPACE SHOWER FILMS

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この記事へのコメント

Fripper
2019年04月21日 15:06
GEZANの音楽は全く聴いたことがありませんが、大越さんの文章を読んでこの映画は是非とも見たいなと思いました。
「ジョン・レノン「Imagine」をけなすことで世の中をわかっているような面をする馬鹿どもに嫌悪感しか抱かない」...
私もそのひとりです。
大越よしはる
2019年04月22日 01:07
コメントありがとうございます。
GEZANについては俺も「なんか面白い声のヴォーカルでオルターナティヴなロックをやってるなあ」ぐらいの認識だったのですが、この映画はGEZANを知らない人にも是非観てほしいと思います。
扱われている題材は重いけど、観終った余韻はむしろ爽やか。