RICHARD HELL AND THE VOIDOIDS/DESTINY STREET(1982)

RICHARD HELL.jpgリチャード・ヘル本人に関してはずっと以前にこのブログで、DOLLの記事を大幅に改定したモノを載せているが。
https://lsd-blog.at.webry.info/201607/article_241.html
ともあれニューヨーク・パンク史上の名盤として知られる1stアルバム『BLANK GENERATION』(1977年)…に較べると、ちょっと分が悪いかな、という2ndアルバム。
TELEVISIONの2ndアルバム『ADVENTURE』(https://lsd-blog.at.webry.info/201812/article_2.html)に近いポジションの1枚とも言えるかも知れない。
そして、『ADVENTURE』が巷間で言われるような駄作ではないのと同様、『DESTINY STREET』も決して悪いアルバムではない。
個人的にはむしろ『BLANK GENERATION』よりもずっと多く聴いている。

TELEVISIONはデビューから変わらぬ4人編成で2年続けて2枚のアルバムを出して解散したが。
RICHARD HELL & THE VOIDOIDSの状況はもっとずっと悪かった。
『BLANK GENERATION』リリース後、1978年にはマーク・ベル(ドラム)が脱退してマーキー・ラモーンになってしまい。
79年1月にはシングル「The Kid With The Replaceable Head」をリリースしたものの、その頃には最早バンドの実態はなかった様子。

前作から5年も経ってからようやくリリースされた2ndアルバム。
プロデューサーは当時THE dB'sやマーシャル・クレンショウを手掛けていたアラン・ベットロック。
リチャード・ヘル(ベース、ヴォーカル)、ロバート・クワイン(ギター)、ノークス・メイシェル(ギター)に、NEW YORK GONGやMASSACREにいたフレッド・メイヤー(ドラム)という4人編成だったが。
ロバートは既に1981年からルー・リードのバンドで活動するようになっていたし、バンドとしての実態はやはり怪しい。

『BLANK GENERATION』でもCREEDENCE CLEARWATER REVIVAL「Walk On Water」の秀逸なカヴァーが収録されていたが。
『DESTINY STREET』では全10曲中3曲がカヴァー。
それぞれの出来は良いものの、前作から5年も経ってやっと出た新作に、オリジナルの新曲が7割しかないという事実には、やはりバンドとしての勢いのなさを感じてしまう。

とはいえカヴァー3曲の出来は本当に良い。
それにしても。
THE KINKSのシングルB面曲「I Gotta Move」の曲名と歌詞をちょっとだけいじった「You Gotta Move」、THEMの名曲「I Can Only Give You Everything」(MC5がカヴァーしていたことは意識されたに違いない)はともかく。
ボブ・ディランの『PLANET WAVES』(1974年)から「Going Going Gone」を持ってくるとは。
やはりと言うべきか、(リチャード・ヘルの髪型やファッションを真似た)英国パンク勢とはまるっきり違うセンス、を感じずにいられない。
(むしろ、同様にディランからの影響を標榜した、英国パンクのルーツ世代であるミック・ファレンあたり…に近い感覚)
あと、”全部、全部あげるから…一人にしないでくれ…”という「I Can Only Give You Everything」アウトロでの強烈な情けなさがまた何とも。

そしてもちろんオリジナル曲。
アルバムの冒頭を飾る「The Kid With The Replaceable Head」(大阪のDJ・キングジョーが一時期定番にしていた)や、1990年の来日ライヴで1曲目だった「Ignore That Door」のような速い曲も良いが。
個人的なハイライトは、時の流れに対する己の無力を歌う「Time」だ。
リチャード・ヘルにとってのデイヴィッド・ボウイ「Changes」、みたいな曲だと思っている。
「Destiny Street」や「Downtown At Dawn」といった楽曲がファンクっぽいのも、ニューヨーク・パンクなど既に終わってしまった82年の時点での新しい方向性の模索、を感じさせる。

ドラムをはじめとして、バンドの演奏は実にタイト。
2本のギターも、フリーキーに暴れる部分とバッキングをしっかり締める部分のバランスが良いと思う。
リチャード・ヘルのベースも、『BLANK GENERATION』の頃よりもかなり上手く聴こえる。
TELEVISION在籍時から、妙に込み入ったフレーズを弾こうとするわりに演奏技術が追い付かない感のあったリチャード、ここではかなり印象的なフレーズをしっかりしたプレイで連発している。
まあ歌はヘロヘロだが(笑)、それは味というモノだろう。

結局、この時の4人編成はこの時だけに終わる。
アルバムに伴うツアーは、リチャード・ヘル以外全く違うメンバーで行なわれたという。
RICHARD HELL & THE VOIDOIDSの名は1983年頃から使われなくなり。
「Destiny Street」で聴かせたファンク的な方向性を推し進めるように、84年には単身ニューオーリンズへと向かったリチャードだったが、80年代半ば以降はコンスタントに音楽活動を続けることはもうなかった。

ちなみにジャケットの写真はリチャード・ヘルのアパートのベッドルームで録られたモノという。
後ろにいる美人さんは、カノジョだったパティ・スマイス?…と思ったら、この頃のリチャードはまだパティと付き合う前で。
窓の前に立っているのは、リチャードの女友達で映画などのライティング・デザイナーとして知られるアン・ミリテッロという人だそうです。
(女優みたいにきれいねえ)

先に書いた通り、『BLANK GENERATION』よりもこのアルバムを聴くことの方が多い。
最近、最新リマスター/リミックスにライヴ音源などを収録した2枚組の新装版が出たのだそうで。